研究目的

研究代表者と研究分担者(寺田)を中心とする研究グループは15 年以上にわたってGNSS(Global Navigation Satellite System)をブイに設置して津波を早期検知するシステムの開発を行ってきた.このシステムは実用化され,GPS 波浪計として,全国に17 点以上設置されてきた(図2).このシステムによって2001 年6 月のペルー地震津波をはじめ多くの津波を検出することができ[e.g.,Kato et al.,2000, 2005],2011 年3 月東北地方太平洋沖地震に伴う津波は,本システムによって事前に捉えられて気象庁の津波警報の更新に役立てられた.

しかし,これまでの手法ではRTK-GPS 方式を用いており地上におかれた基準局との基線距離が高々20 ㎞と制限されていた.そのため,この制限をはずしてより遠方で津波を早期検知する努力が行われてきた[寺田,2013].これまでの研究で,測位解析の手法として基線を用いない精密単独測位とよばれる新たな解析手法PPP-AR を導入すると共に,データ伝送方式としてはそれまで用いられてきた地上の無線ではなく,衛星通信を用いた方式を導入する基礎的な実験を行いデータの連続的な伝送に成功した[寺田,2014].しかしながら,PPP-AR 手法による精度評価や動揺するブイからのデータの取得率については課題を残している.本研究では,これらの方式について実験をさらに進め,精密単独測位法PPP-AR の精度評価と,ブイの動揺等による伝送率低減等の課題を克服して,衛星通信の信頼性を上げることを目的とする.

研究目標

一方,GNSS と音響システムを組み合わせた海底地殻変動観測の方式は,米国研究者によって発案され,日本の海上保安庁や大学の研究者によって開発が進められ,2011 年東北地方太平洋沖地震の際に30m を超える海底の地殻変動を検出するのに役立てられ,海底地殻変動観測の重要性が深く認識された.

しかしながら,これまでの方法では海上の測位観測は船舶によるものに限られており,一年あたり数回の観測が限度であり,連続的な観測は不可能であった.そのため,地震直前直後の変動など詳細な海底地殻変動の様相を明らかにすることはできていない.もし海底地殻変動の計測が連続的に行えれば,沈み込むプレート境界の固着強度の時間変化や最近注目を集めているプレート境界のスロースリップイベントの機構解明に重要なデータを提供できることになる.我々は,一昨年度までの科研費等により,GNSS ブイ方式による海底地殻変動の初歩的な実験を行った.そこで,本研究ではGNSS ブイを用いたGNSS-音響による海底地殻変動の長期連続観測に取り組み,課題の抽出と解決を行って,同方式の可能性を検証する.

将来像

以上のように,本研究計画ではこれまで着実に進められてきたGNSS ブイを用いた津波計測の機能向上に加えて海底地殻変動の精密計測手法の開発を行う.これによりGNSS ブイの多機能化によって費用対効果の高い地震・津波防災システムの構築が期待される.なお,本研究が順調に進められれば,ここで得られたデータはさらに多くの応用が期待できる.

GNSS 測位は衛星と地表や海上に設置された受信器の間の距離を精密に計測することが基礎になる。このためには電波の伝搬媒質(電離層と大気)の影響を正確に推定して補正することが重要であるが,これらの補正量はそのまま伝搬媒質に関する研究にとって重要な物理量となる.気象学の分野では,陸上のインフラである国土地理院のGEONET を用いた“GPS 気象学”が発展してきた[小司他,2009]. また,GNSS 電波を用いた電離層の研究は既に多く行われている[例えば,Saito et al., 2001].しかしながら,これらはほとんどが地上の観測点でのものであり.より均質のデータを得るため,海上での可降水量・電離層データの取得が望まれている.本研究計画ではこうした応用技術への展開に資する基礎的な研究も行う.

本研究が成功裏に終われば,次のステップとしてGNSS ブイは津波・海底地殻変動観測に加え,大気及び電離層に起因する災害の軽減に役立つ総合的な観測を行うための総合的な防災システムが構築できる可能性も秘めていると言えよう(図3).仮に,西太平洋にGNSS ブイアレイが設置できれば,陸のGEONET と共に日本の防災力向上のための総合的なシステムを構築することが可能であろう [加藤他, 2013].海洋GNSS ブイアレイは防災だけでなく総合的な地球科学観測研究のインフラとなることも期待される.我々の究極のゴールは“海のGEONET”とでもいうべき観測網を作り上げることにある.GNSS ブイのこのような総合的な応用研究は,筆者が知る限り他では行われていない.

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図2:印は日本列島周辺に設置されている
  GPS 波浪計(2014 年10 月現在).
  印は本研究の実験場所
図3:本研究による海洋GNSS ブイを用いた
  総合防災システムの概念図


研究の歴史

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研究者組織

研究代表者 東京大学地震研究所 教授 加藤照之
研究分担者 高知工業高等専門学校環境都市デザイン工学科 客員教授 寺田幸博
研究分担者 名古屋大学大学院環境学研究科 准教授 田所敬一
研究分担者 弓削商船高等専門学校商船学科 准教授 二村彰
連携研究者 気象庁気象研究所気象衛星・観測システム研究部 室長 小司禎教
連携研究者 国立研究開発法人情報通信研究機構電磁波計測研究所・宇宙環境インフォマティクス研究室 室長 石井守